
大西先生の英語の授業は、私も大好きでいつもNHKのテレビ番組を録画して、繰り返し見たものです。一貫して、学校文法に頼らず、感覚で (あてずっぽうというのではなく) ネイティブのハートにせまるためのヒントを探っている印象です。
おそらくその道はとほうもなく険しいはずです。
たとえば、本書の帯に “theは「一つに決まる」 ときに使われる” と書いてありますね。ネイティブの the の感覚はそれだというのですが、今、辞書で the を引けば定冠詞(形容詞)として、あるいは副詞として合計20ほどの意味、用法に分類されています。中には30以上になる辞書もあります。
もちろんネイティブはその用法を分類暗記して使っているのではなく、自然に出てくるわけですが、その感覚を何とか学習者に伝えたいという熱意ですね。もちろん「一つに決まる」というだけでは、伝わりませんので、図を使ったり、さまざまな説明を加えます。
読んでいて英語講師である私は非常に勉強になり、授業で活かせそうなところも多々あるのですが、さらにそれを生徒に伝えるのはかなり厳しいですね。
一つ例をあげますと、固有名詞に the が付く特殊なものとして、新聞や、〜一家、川、などがどの文法書にも載っています。通常、“覚えなさい” と用例を分類して教えるのですが、それを批判します。
大西氏は、分類して暗記するのではなく、ネイティブの心の大元にあるその the の感覚を何とか説明しようとするわけです。その考え自体はすばらしいと思います。
例えば新聞のタイムズ紙は 「The Times」 と the が付きますが、雑誌であるタイムは 「Time」 と言います。
ややこしいですね。大西氏の説明を抜粋してみましょう。なぜ新聞に the が付くのかという点です。
この疑問については、雑誌名には the が採用されることはあまりないという事実を考慮すればカタがつくだろう。 the は雑誌には荷が重いのだ。「1つに決まる」 には 「誰もがそれとわかる」 「際立っている」 という語感が付随する。日々創刊され、読者層も限られている雑誌にとって、そうした光り輝く王冠は大仰に過ぎるのだ。名称につく the はこうした実体と名称の間の微妙な駆け引きの上に成り立っている。
カタがつきましたか(笑)?私はこの主張に大変興味があって、実は賛成なのですが、この説明を生徒が納得してくれるとはとても思えないのです。まぁ、わかりにくいところで、しかも一部の抜粋ですから余計複雑に思えるでしょうが…。他はいくつも良い説明があるのですが、やはりイメージを伝えるというのは大変です。
目次は以下の通りですが、難しそうでしょ(笑)。
序章 回帰―機械から感覚へ、規則からイメージへ
第1章 遍在―感覚は英語を覆う
第2章 無機質―感覚の通わぬ世界
第3章 虚構―日本語訳・規則・用法分類の絶望
第4章 イメージの構築
という訳で、私にとっては、非常に勉強になる尊敬すべき大西氏で、著作もいくつも読んでいますが、生徒には薦められないでいます。大西氏もご自分がやろうとしていることが非常な難題であることを承知していますが、学校文法からの脱却を何としてもやり遂げるという強い覚悟がうかがえます。
第4章序文
あらゆる現象に血の通った感覚は介在する。それをイメージとして汲み取り、手渡す。その単純な動作はあらゆる作業に優先されなければならない。ここに至るまで私の主張してきたことは、ただそれだけのことだ。
とあります。圧巻なのは、その感覚で読み取った英文解釈の例として、最後に、バートランドラッセルの著作から、ある一節を引用し、解説しています。すばらしいです。
というわけで、生徒より英語の先生や、時間的に余裕のある方にお薦めしたい一冊です。つまり学校文法の批判を理解するためには、学校文法を熟知していなければならないわけです。そのレベルに達している生徒は少ないと思いますので、講師が読んで活かせる部分を活かしていくのが最良の本書の利用法だと考えます。
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http://tokkun.net/jump.htm 【当教室HPへ】
『英文法をこわす− 感覚による再構築』大西泰斗
日本放送出版協会:231P:966円
